洗濯洗剤の「アリエール」や紙おむつの「パンパース」、ヘアケアの「パンテーン」。
これらブランド名のうち、ひとつも耳にしたことがない方はいないのではないでしょうか。
多くの人が日常的に店頭で目にし、手にとっているこれらの商品を生み出しているのが一般消費財メーカーのP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)社です。
私たちの暮らしに深く浸透したブランドを数多く展開するP&Gですが、真の強みは、単なる製品開発力だけではありません。
卓越したマーケティング戦略と、それを支える独自の人材育成システム。
これらはP&Gの世界的な展開を支え、さらには数多くの経営者を魅了し、背中を追わせてきました。
今回はそんなP&Gのマーケティング術について、徹底解説させていただきます!
ページコンテンツ
P&Gとは?
P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)は、世界最大級の一般消費財メーカー。
代表的なブランドとしては洗濯洗剤の「アリエール」や「ボールド」、紙おむつの「パンパース」、ヘアケアの「パンテーン」、シェービング用品の「ジレット」などがあります。
これらを日常的に使用している方も多いのではないでしょうか。
P&Gは様々なカテゴリーで世界中の人々の暮らしに貢献する製品ブランドを展開するだけではなく、卓越したマーケティング戦略と、それを支える人材育成システムが業界内外から非常に高く評価されています。
P&Gマフィアの輩出
さらにP&Gは、いま各界で活躍しているマーケターを数多く輩出したことでも有名です。
たとえば株式会社刀の代表取締役CEOである森岡毅、ファミリーマートのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務めた足立光、アリナミン製薬で副会長を務める野上麻理などがその代表例として挙げられます。
彼らは「P&Gマフィア」とも呼ばれているほど笑
いかにマーケター育成において独特かつ、優れた環境だったかがわかりますね!
P&Gの独特な考え
「消費者はボス」という考え
P&Gのマーケティングにおいて、最も根本的な理念として掲げられているのが「Consumer is Boss」、つまり「消費者が上司である」という考え方です。
これは、社内の上司や株主ではなく、最終的に製品を使う消費者こそがすべての決定権を持つという価値観を表しています。
つまりP&Gの社員は、あらゆるマーケティング活動において常に消費者の視点に立ち、顧客のニーズを満たすことを最優先に行動するのです。
エスノグラフィーの活用
この消費者中心のアプローチは、単なるアンケート調査に留まりません。
P&Gでは、消費者の自宅を訪問し、日常生活を観察する「エスノグラフィー」といった手法も積極的に取り入れています。
これは、言葉にされない潜在的なニーズや、普段意識されていない行動パターンを深く理解するために不可欠なプロセスです。
徹底した観察と対話を通じて、消費者が本当に何を求めているのか、何に不満を感じているのかを肌で感じ取ることで、本当に価値のある製品やサービスを生み出す土台を築いているのです。
「正しいことをする」という倫理観
この「消費者はボス」の原則には、「正しいことをする」という倫理観もセットで根付いています。
これは、マーケティング活動において誇張広告や虚偽の表現を一切行わないというP&Gの方針です。
P&Gでは
消費者の信頼は、長期的なブランド育成において最も重要な資産である |
と認識されており、一度失われた信頼を取り戻すことは極めて困難と捉えられています。
そのため、消費者に嘘をつくような行為は決して許されません。
P&Gでは、消費者の信頼を得ることこそが、市場で勝ち残るための絶対条件であると考えているのです。
ブランドマネージャー制度
P&Gのマーケティング戦略のもう一つの特徴が、独自の「ブランドマネージャー制度」です。
これは、たとえ若手社員であっても特定のブランドの「ミニ社長」として、そのブランドの経営を丸ごと任されるという画期的なシステムです。
ブランドマネージャーは、担当ブランドの売上から利益まで、すべての業績に責任を持ちます。
まさに「自分の会社」を経営するような裁量と責任が与えられるため、彼らは非常に高い当事者意識を持って業務に臨みます。
社内のあらゆるチームと連携
ブランドマネージャーの役割は、単にプロモーションを企画するだけではありません。
彼らは、市場調査から製品開発、製造、営業、流通、そして最終的な顧客サービスに至るまで、ブランドに関わるあらゆる側面を統括します。
たとえば新製品の開発においては、消費者のニーズを深く理解し、そのインサイトに基づいて製品のコンセプトを策定します。
そして、開発チームと密接に協力し、製品の仕様や品質を決定していきます。
また、市場での競争に打ち勝つためには、営業チームとの連携も不可欠です。
ブランドマネージャーは、営業戦略の策定にも深く関与し、製品が消費者に届くまでのチャネル戦略を最適化しなければなりません。
このようにブランドマネージャーは多岐にわたる包括的な責任を負うことで、真のビジネスリーダーとしてのスキルを習得してP&Gを支えているのです。
P&G流、ニーズ調査の戦略
JTBDフレームワークで困りごとを探る
P&Gが市場を深く探る上で重要視しているのが、「Jobs to be Done (JTBD)」という考え方です。
これは製品やサービスを「年齢や性別」といった従来のデモグラフィック属性で分類するのではなく、「消費者が何を片付けたいのか」、つまりどのような「困りごと」や「課題」を解決したいのかという視点で市場を捉えるフレームワークです。
たとえば洗剤を例に考えてみましょう。JTBDフレームワークでは単に「主婦層」という括りではなく、「頑固な泥汚れに悩む人」や「デリケートな衣類の色落ちを心配する人」といった具体的なシチュエーションに焦点を当てます。
P&Gは、このような消費者が日常生活で直面する様々な「ジョブ(仕事)」を徹底的に分析し、そのジョブを最も効果的に「片付ける」ことができる製品開発を目指します。
これにより、表面的なニーズだけでなく、消費者の行動の根底にある動機や、彼らが製品を通じて達成したい真の目的を深く理解することが可能になります。
このJTBDフレームワークの視点を取り入れることで、P&Gは単なる機能的な価値提供にとどまらず、消費者の感情的な側面や社会的な側面まで踏み込んだ、より本質的なソリューションを提供できるのです。
ターゲットは「買わざるを得ない人」
P&Gのマーケティング戦略において、「ターゲットを絞り込む」という考え方は非常に重要です。
「みんな」を狙うのではなく、「買わざるを得ない人」、つまり強いニーズや課題を抱え、その解決策として自社製品を強く求めている層に焦点を当てるのです。
これは、限られたリソースを最も効果的に活用し、ブランドの浸透を最大化するための戦略です。
「バイラル効果」を狙う
バイラル効果とは、口コミやSNSなどを通じて情報が爆発的に広がる現象のことです。
まるでウイルスのように、情報が人から人へと感染するように広まる様子から、このように呼ばれています。
P&Gは、コアな顧客層が製品に深く「ハマる」ことで、その熱意が口コミとして広がり、結果としてより広範な層にブランドが浸透していくと考えています。
この「バイラル効果」を狙うことで、広告費を投下するだけでなく、顧客自身がブランドのアンバサダーとなるような状況を作り出します。
「コア&モア戦略」で新たな価値をつくる
さらにP&Gは、既存のニーズだけでなく、「コア&モア戦略」と呼ばれるアプローチで新しいニーズを創造することにも長けています。
これは、たとえば「夜用おむつ」のように、これまで顕在化していなかった消費者の不満や不便さを特定し、そこに新たな価値を提供する製品を投入する戦略です。
つまり既存市場での競争だけでなく、新たな市場そのものを創造することで、持続的な成長を実現しています。
このように、P&Gは徹底したターゲット選定と、未開拓のニーズを発見する「モア戦略」を組み合わせることで、市場をリードしているのです。
P&G流、商品開発の戦略
P&Gが製品開発やマーケティング戦略を成功させる上で、常に意識しているのが「5つの優位性(Five Equities)」と呼ばれる概念です。
①商品の優位性(Product) ②パッケージの優位性(Package) ③広告の優位性(Brand Communication) ④売り場の優位性(Retail Execution) ⑤価値の優位性(Value) |
これは、競合他社に対して自社製品が明確な優位性を持つべき5つの領域を示し、消費者にとって「なぜこの製品を選ぶべきか」を明確に伝えるための指針となります。
①商品の優位性(Product)
一つ目の「商品」における優位性は、その名の通り、製品自体の機能や性能で他社を圧倒することです。
たとえば日本でも大人気のジェルボール洗剤は、計量の手間を省き、一粒で最適な洗浄効果を実現することで、消費者の「時短」というニーズに応えました。
これにより、単なる洗剤ではなく、洗濯という「家事」をより簡単に、より効率的に「片付ける」ソリューションとして市場に投入され、瞬く間に人気を博しました。
②パッケージの優位性
二つ目の「パッケージ」の優位性では、ただ製品を保護するだけでなく、使いやすさや環境への配慮、店頭での視認性など、多角的な側面で差別化を図ります。
アリエールが採用した「Eco箱」は、リサイクル素材を使用しながらも、開けやすく、詰め替えやすい設計が特徴です。
これは、環境意識の高い消費者だけでなく、日常の使い勝手を重視する消費者にも響き、製品選択の決め手となる優位性を提供しています。
③広告の優位性
三つ目の「広告」の優位性は、単に製品を宣伝するだけでなく、消費者の心に響くメッセージを発信し、ブランドイメージを構築することにあります。
P&Gが行った「Turn to 30」(低温洗濯キャンペーン)では、洗剤の洗浄力を低温でも発揮できることを訴求し、エネルギー消費を抑えたいという環境意識の高い消費者に響きました。
このように、P&Gの広告は製品の機能だけでなく、それがもたらす価値や、社会的な貢献にも焦点を当て、消費者の共感を呼ぶメッセージを発信します。
④売り場の優位性
四つ目の「売り場」の優位性は、リアル店舗でもオンラインでも、消費者が製品を見つけやすく、手に取りやすい環境を整えることです。
店頭では目立つ棚に陳列されるよう工夫し、オンラインでは検索エンジンでのヒット数を高めるため充実したレビュー情報を掲載し、製品が出来るだけ目立つように工夫しています。
これにより、消費者が製品を探す手間を最小限に抑え、スムーズな購買体験を提供することが可能になります。
⑤価値の優位性
そして最後の「価値」の優位性は、プレミアム価格であっても、それを上回る「便利さ」や「体験」を消費者に実感させることです。
P&Gの製品は、しばしば競合よりも高価格帯に設定されることがありますが、その価格に見合う、あるいはそれ以上の便益や満足感を提供することで、消費者は「これ以上の便利さ」を感じ、納得して購入に至ります。
この「価格以上の価値」を感じさせる戦略こそが、P&Gが長期にわたり市場で優位性を保ち続けている理由と言えるでしょう。
優位性のベクトル | 定義 | 具体的な事例(製品・取り組み) |
商品の優位性 (Product) | 消費者が違いを認識できる卓越した性能・機能 | ・パンパース スワドラー:優れた快適性、最大100%漏れ防止 ・Oral-B iO:AIコーチングによるブラッシング効果向上 ・Dawn PowerWash:少ない水で早く洗える ・Tide Hygienic Clean:目に見えない汚れまで除去 ・Swiffer PowerMop:モップ&バケツ掃除を半分の時間で |
パッケージの優位性 (Package) | 消費者を引きつけ、ブランド価値を伝え、使いやすく、環境にも配慮した包装 | ・Ariel PODS ECOCLIC:リサイクル素材使用、リサイクル可能、消費者にも好評 ・Dawn EZ-Squeeze:逆さまにしなくても最後まで使いやすいキャップ ・Always ZZZ:カテゴリー初の革新的パッケージ ・個包装錠剤(アライン):毎日の服用を促す医薬品風パッケージ |
広告の優位性 (Brand Communication) | 製品・パッケージの優位性を効果的に伝え、消費者を惹きつける広告・広報 | ・Safeguard “Wash Hands, Have Dinner”:2億人以上にリーチした効果的なキャンペーン ・Ariel “Turn to 30″:低温洗浄の利点を訴求し行動変容を促進 |
売り場の優位性 (Retail Execution) | 実店舗・オンラインでの最適な品揃え、価格、棚割り、販促、コンテンツ提供 | ・適切な店舗カバレッジ、製品形態、サイズ、価格帯、棚割り、マーチャンダイジング(実店舗) ・適切なコンテンツ、品揃え、評価、レビュー、検索、サブスクリプション提供(オンライン) ・Fairy(フランス):大規模な店頭イベント、ディスプレイ、棚シェア確保 |
価値の優位性(Value) | 上記4要素を統合し、消費者にとって魅力的で分かりやすい価格で提供される総合的な価値。小売業者にとっては利益貢献。 | ・Oral-B iO:手磨きからのトレードアップを促進し、カテゴリー成長の70%に貢献 ・Dawn/Fairy:世界市場成長の60%に貢献し、記録的なシェア達成 ・Tide Pods:価格プレミアムにも関わらず高い売上を達成 |
P&G流、値付け&売り方の戦略
価値ベース価格
前述のとおり、P&Gの価格設定戦略は、単にコストに利益を上乗せするだけではありません。
彼らは「価値ベース価格」という考え方を採用しています。
これは、製品が消費者にもたらす独自の価値や利便性に基づいて価格を設定するというアプローチ。
たとえ価格が競合製品よりも高く設定されていても、消費者がその価格以上の「ラクさ」や「効果」を実感できれば、購入につながるとP&Gは考えています。
たとえば高級スキンケアブランドのSK-IIや高機能歯ブラシなどがその代表例です。
これらの製品は、一般的に高価格帯に位置しますが、肌の悩みを解決する高い効果や、歯磨きをより効率的かつ快適にする機能によって、消費者はその価格に見合う、あるいはそれ以上の価値を感じます。
「高いけれども、それだけの価値がある」という認識を消費者に持たせることで、単なる価格競争から一線を画し、ブランドのプレミアム性を確立しているのです。
この戦略を支えるのは、さきほど解説したP&Gが徹底する消費者理解です。
消費者が何を「価値」と感じ、どのような「困りごと」を解決したいのかを深く掘り下げることで、その価値に見合った価格を設定し、消費者が納得して製品を選べるようにしています。
「EDLP」+たまにセールでメリハリ
P&Gの販売戦略において特徴的なのは、普段は「Everyday Low Price (EDLP)」を基本としつつ、戦略的なセールを行う「ハイロー戦略」も並行することでメリハリをつけている点です。
EDLPとは、常に手頃な価格で製品を提供することで、消費者がいつでも安心して購入できる環境を整える戦略です。
それを基本として、新製品の発売時や特定の季節、イベントに合わせて限定的なセールを実施し、消費者の購買意欲を喚起します。
この「たまにセール」は、普段はEDLPで信頼感を構築しつつ、特別な機会に購買を促すことで、ブランドへの関心と売上を一時的に高める効果があります。
このメリハリのある価格戦略は、消費者の購買心理を巧みに捉え、飽きさせない工夫と言えるでしょう。
サプライチェーン3.0
P&Gのマーケティング戦略は、製品開発や価格設定、広告宣伝だけでなく、製品を消費者の手元に届ける物流までを含めた「サプライチェーン」全体に及びます。
彼らはこれを「サプライチェーン3.0」と呼び、物流を単なるコストセンターではなく、マーケティング戦略の一部として捉えています。
サプライチェーン3.0では、AIやIoTといった最新テクノロジーを積極的に活用し、在庫の最適化や配送ルートの効率化を図っています。
たとえばAIを活用して需要予測の精度を高めることで、過剰な在庫を抱えるリスクを減らし、必要な製品を必要な場所にタイムリーに届けることを可能にしています。
これにより、欠品による販売機会の損失を防ぎ、消費者の満足度を高めるだけでなく、物流コストの削減にも貢献しています。
さらに、サプライチェーンの効率化は、環境負荷の低減にも繋がります。
輸送に伴うCO2排出量を削減するなど、持続可能性への取り組みもサプライチェーン戦略に組み込まれています。
物流の最適化を通じて、製品をより早く、より効率的に、そしてより環境に優しく消費者に届けることは、P&Gのブランド価値を高め、企業の社会的責任を果たす上でも重要な役割を担っているのです。
P&G流、プロモーション戦略
P&Gの広告・プロモーション戦略は、単なるクリエイティブな発想だけに頼るのではなく、データに基づいた「科学」として捉えられています。
消費者の行動や市場の動向を徹底的に分析し、効果が最大化されるよう綿密に計画された施策を実行することで、高い費用対効果とブランドの成長を実現しています。
すべての接点で同じストーリーを伝える「IMC」
P&Gが広告戦略で重視しているのが、「統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)」です。
これは、テレビCM、SNS、Webサイト、店頭プロモーションといった、消費者がブランドと接するあらゆるチャネルで、一貫したメッセージとストーリーを伝えるという考え方です。
各チャネルがバラバラのメッセージを発信するのではなく、それぞれの媒体の特性を活かしながらも、ブランドが伝えたい核となるストーリーを統一することで、消費者の心に深くブランドイメージを刻み込みます。
たとえば新しい洗剤を投入する際、テレビCMで製品の優れた洗浄力をアピールし、SNSではユーザーが実際に使ってみた感想を共有してもらうキャンペーンを展開します。
さらに、店頭では製品の特長を分かりやすく提示するPOPを設置し、消費者との直接的な対話を通じて疑問を解消します。
このように、すべての接点で同じ「なぜこの製品を選ぶべきか」という問いに対する明確な答えが提供されることで、消費者はより強くブランドに引きつけられ、購買意欲を高めることができるのです。
ツールを駆使して広告効果を最大化
P&Gのプロモーション活動は、常にデータによって裏付けられ、とくにデジタル広告においては「データ駆動型」のアプローチを徹底しています。
たとえばamazon広告においてはAmazon Marketing Cloud(AMC)のような分析ツールを駆使し、広告キャンペーンの効果を詳細に分析します。
これにより、どの広告が、どのような消費者に、どれくらいの効果をもたらしたのかを「丸裸」にしているのです。
このデータ分析を通じて、P&Gは広告予算の最適な配分を決定し、より効果的なクリエイティブの開発に繋げています。
例えば、ある広告が特定のターゲット層には響いているが、別の層には届いていないといった課題を早期に発見し、迅速に改善策を講じることが可能です。
このように客観的なデータに基づいて意思決定を行うことで、広告投資のリターンを最大化し、無駄のない効率的なマーケティングを実現しています。
ストーリーテリング+ベネフィット
P&Gの広告は、単に製品の機能やスペックを羅列するだけでなく、消費者の感情に訴えかける「ストーリーテリング」と、製品がもたらす具体的な「ベネフィット」を組み合わせるのが得意です。
例えば、パンパースの「MOM’S 1ST BIRTHDAY」という動画キャンペーンでは、新米ママの喜びや不安に寄り添う感動的なストーリーを展開しました。
同時に、パンパースの高い吸収力や漏れにくさといった機能が、新米ママの育児をサポートするという具体的なベネフィットを明確に伝えました。
なお、現在動画は非公開になってしまいましたが、内容はこちらのサイトでわかります。
めちゃくちゃ感動しました!笑
このようなアプローチは、消費者が製品を使うことで得られる「感情的な価値」と「機能的な価値」の両方を訴求することで、より深い共感を呼び、購買へと繋がります。
泣けるような演出で心を揺さぶりながらも、科学的な実証によって製品の信頼性を担保することで、「感情」と「理性」の両面から消費者にアプローチし、最終的な購買行動を促す仕組みを作り上げているのです。
P&Gの失敗事例とその教訓
P&Gのマーケティング戦略を学ぶ上で、成功事例からヒントを得るだけでなく、過去の失敗から学ぶことも非常に重要です。
なぜなら、失敗の分析は、成功の裏にある原則や、市場の理解において見落としがちなポイントを浮き彫りにするからです。
P&Gは、こうした失敗から多くの教訓を得て、常に戦略を洗練させてきました。
ここでは、あえてP&Gの失敗事例とその改善策についてご紹介します!
ファブリーズ:消費者心理の見落とし
いまや有名な消臭剤「ファブリーズ」の初期のマーケティングは実は失敗しています。その原因は、消費者心理の見落としでした。
P&Gは、部屋の臭いが気になる消費者がファブリーズを使うだろうと想定していましたが、実際には、自身の部屋の臭いには「慣れてしまう」ため、そもそも臭いに気づいていない、あるいは気にしていない消費者が多いことに気づきました。
この「臭いに慣れる」という消費者心理を見落としたことで、当初の広告はターゲットにあまり響かなかったのです。
この失敗から、P&Gはファブリーズのメッセージを「消臭」から「リフレッシュ」へとシフトし、消費者自身が気づいていない「欲求」に働きかけることの重要性を学びました。
ヴィダルサスーン:機能訴求が欠けていた
ヘアケアブランド「ヴィダルサスーン」の初期における派手なCMも、機能訴求が欠けていたために失敗した例として挙げられます。
当時のCMは、華やかなモデルやスタイリッシュな映像でブランドイメージを強調しましたが、製品が具体的にどのような髪の悩みに対して、どのような効果をもたらすのかという「機能訴求」がほとんどありませんでした。
結果として、消費者は製品を使う具体的なメリットを理解できず、購買には繋がりませんでした。この事例は、いくら魅力的なイメージ広告であっても、製品の核となる機能やベネフィットを明確に伝えなければ、消費者の購買意欲を喚起できないという教訓を与えました。
「海外一律戦略」での失敗
P&Gは、世界中で製品を展開するグローバル企業です。世界で展開するマーケティング術の鍵は、一貫したグローバル戦略を持ちつつも、各地域の文化や消費者のニーズに合わせて柔軟に「ご当地アレンジ」を加えること。
その考えに至るまでには、もちろん様々な失敗と学びを経験しています。
日本おむつ市場:コウノトリ広告から桃太郎モチーフへ
P&Gが日本のおむつ市場に参入した際、初期の広告戦略では、欧米で一般的だった「コウノトリが赤ちゃんを運んでくる」というモチーフを採用しました。
しかし、この広告は日本の消費者にほとんど響かず、結果として失敗に終わってしまったのです。
日本では、赤ちゃんが生まれることを「コウノトリが運んでくる」という文化的な背景が薄かったため、広告の意図が伝わりにくかったことが原因でした。
この失敗から学び、P&Gは日本の文化に深く根ざしたモチーフへの転換を図りました。
それが、「桃太郎」を起用した広告キャンペーンです。
桃太郎は、誰もが知る日本の昔話のヒーローであり、その物語は親しみやすく、家族の絆や成長といったポジティブなイメージと結びつきやすいものでした。
この「桃太郎モチーフ」に切り替えたことで、P&Gのおむつは日本の消費者に受け入れられ、市場での地位を確立することに成功しました。
インド:高価格洗剤から小分けパック+低価格へ
インド市場への参入においても、P&Gは同様の学習を経験しています。
当初、高品質で高機能な洗剤をそのまま高価格帯で投入しましたが、これは現地の一般的な消費者の購買力やライフスタイルに合わず撃沈。
インドでは、日々の生活必需品であっても、多くの消費者が少量ずつ、手頃な価格で購入する習慣があったのです。
この反省から、P&Gは戦略を大きく転換しました。
製品の品質は保ちつつ、消費者が手を出しやすい「小分けパック」を用意し、価格も大幅に抑える「低価格」戦略で再挑戦しました。
このアプローチは、インドの消費者の購買行動や経済状況に合致し、P&Gの洗剤は広く受け入れられるようになりました。
単に製品の優位性を主張するだけでなく、市場の経済状況や消費者の購買習慣に合わせた柔軟な価格設定とパッケージ戦略が不可欠だったのです。
インドネシア:「ワルン」無視から1枚売りパッケージ開発へ
インドネシアの消費者は、地域に点在する小さな売店「ワルン」で日用品を少量ずつ購入する習慣が根強くあります。
しかし、P&Gは当初、大量販売を前提としたパッケージング戦略に固執し、この「ワルン」の重要性を見過ごしていました。
そしてやはり、「ワルン無視」の戦略は失敗となります。
そこでP&Gは、ワルンの特性と消費者の購買習慣を徹底的に分析し、1回使い切りの「1枚売りパッケージ」の開発に着手しました。
この小ロット販売に特化したパッケージは、ワルンでの販売に適しており、消費者が気軽に製品を試せる機会を作ることに成功。
これにより、P&G製品はワルンを通じて広く普及し、インドネシア市場でのシェアを拡大することができました。
流通チャネルの特性を深く理解し、それに合わせた製品形態や販売戦略を構築することの重要性がわかるエピソードですね。
まとめ
今回はP&Gから学ぶマーケティング術について徹底解説させていただきました。
P&Gの事例から学べる内容を以下にまとめます。
消費者理解の徹底
「消費者はボス」という理念の導入: 自社の上層部や競合他社ではなく、製品やサービスを利用する消費者を「ボス」と位置づけ、彼らの視点からすべてのマーケティング活動を考える文化を構築する。 エスノグラフィーの活用: アンケート調査だけでなく、消費者の日常生活を深く観察するエスノグラフィーなどの質的調査を取り入れ、言葉にされない潜在的なニーズや行動パターンを深く理解する。 「正しいことをする」倫理観の徹底: 誇張広告や虚偽の表現を避け、製品やサービスの品質・効果について正直かつ正確な情報を提供することで、消費者からの長期的な信頼を構築する。 |
組織体制の戦略
ブランドマネージャー制度の導入検討: 特定の製品やブランドに対し、若手社員にも「ミニ社長」として売上・利益に責任を持たせ、製品開発から販売までを一貫して担当させることで、次世代のリーダーを育成し、当事者意識を高める。 |
市場の探り方
JTBD(Jobs to be Done)フレームワークの活用: 製品やサービスを、顧客が「何を片付けたいのか」、つまり解決したい「困りごと」や「課題」という視点から定義し、それに基づいて製品開発やマーケティング戦略を立案する。 ターゲット設定の明確化: 「みんな」を狙うのではなく、自社製品を強く求めている「買わざるを得ない人」に焦点を当て、限られたリソースを最も効果的に投入することで、口コミ(バイラル効果)による広がりを狙う。 コア&モア戦略の導入: 既存の顕在ニーズだけでなく、まだ誰も気づいていない潜在ニーズや不満を発見し、そこに新たな価値を提供する製品を投入することで、新しい市場を創造し持続的な成長を目指す。 |
製品開発・価格・流通の戦略
「5つの優位性」の追求: 製品(Product)、パッケージ(Package)、広告(Brand Communication)、売り場(Retail Execution)、価値(Value)の5つの領域で競合に対し明確な優位性を持ち、「なぜ自社製品が選ばれるべきか」を明確にする。 価値ベース価格戦略の採用: 製品の機能やコストだけでなく、消費者が感じる独自の価値や利便性に基づいて価格を設定する。「高いがそれ以上の価値がある」と納得させることで、価格競争から脱却しプレミアム性を確立する。 EDLPとセールによるメリハリ: 普段は安定した手頃な価格(EDLP)で安心感を提供しつつ、新製品投入時やイベント時には戦略的なセールを行うことで、消費者の購買意欲を喚起し、ブランドへの関心を高める。 サプライチェーンのマーケティング活用: 物流を単なるコストではなくマーケティング戦略の一部と捉え、AIなどを用いて在庫最適化や配送効率化を図ることで、消費者満足度向上と環境負荷低減を両立させる。 |
プロモーション戦略
IMC(統合型マーケティングコミュニケーション)の実行: テレビ、SNS、Webサイト、店頭など、あらゆる顧客接点で一貫したメッセージとストーリーを伝えることで、ブランドイメージを強化し、消費者の心に深く刻み込む。 データ駆動型マーケティングの徹底: Amazon Marketing Cloudのような分析ツールを積極的に活用し、広告効果を詳細に分析することで、予算の最適配分とクリエイティブの改善を行い、広告投資のROIを最大化する。 ストーリーテリング+ベネフィットの融合: 広告において、製品の機能だけでなく、消費者の感情に訴えかけるストーリーと、製品がもたらす具体的なメリット(ベネフィット)を組み合わせ、感情と理性の両面から購買を促す。 |
失敗からの学習と改善
過去のマーケティング失敗事例(例:ファブリーズの初期戦略、ヴィダルサスーンの機能訴求不足、海外市場での一律戦略)を分析し、消費者心理の見落とし、機能訴求の重要性、文化・価格感覚の理解の必要性などの教訓を自社の戦略に活かす。 |
ぜひ皆さまもこの記事を参考にP&Gのマーケティング戦略を自社に落とし込んで、活用してみてくださいね!
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この記事を書いた人
