無印良品は、1980年に西友のプライベートブランドとしてスタートしました。
当時掲げられていたキャッチコピーは「わけあって安い」
この言葉が示していたのは、単なる低価格路線ではありません。
素材の選び方、製造工程の見直し、過剰な包装の削減など、
「安くできる理由」を一つひとつ積み重ねた結果としての価格であることを、あえて正直に伝える姿勢でした。
ブランド名に「無印良品」とあるように、
当初からロゴや装飾で価値を演出するのではなく、
生活にとって本当に必要なものを、必要なかたちで届けることが重視されてきました。
この姿勢は、その後の商品開発、店舗づくり、情報発信、
さらには環境や地域との取り組みにまで一貫して受け継がれています。
今回は、無印良品の思想がどのようにブランド戦略やマーケティング施策として形になっているのかを整理していきます。
※この記事で使用している画像は全て、公式HPからの引用となります。
(筆者に実際届いたメルマガのスクショを除く)
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無印良品のブランド戦略

無印良品のマーケティング戦略を理解するうえで欠かせないのが、まず「ブランド戦略」の考え方です。
「考え方の軸」として機能しており、
商品開発や店舗づくり、情報発信のすべてに影響を与えています。
感覚的に語られがちな無印良品の強さを言語化するためには、
まずこの土台を押さえることが重要です。
ブランドの核:「これがいい」ではなく「これでいい」
無印良品のブランドを象徴する考え方としてよく語られるのが、
「これがいい」ではなく「これでいい」という姿勢です。
これは妥協や消極的な選択を意味するものではありません。
選択肢が過剰にあふれる現代において、
十分に考え抜かれた「過不足のない選択」を提示するという考え方です。
強い主張や流行を押しつけるのではなく、
使い手が自分の生活に自然に取り入れられる余白を残す。
この姿勢が、年齢やライフスタイルを問わず支持される理由になっています。
マーケティングの観点では、欲望を刺激するのではなく、
判断の負担を減らす価値提供だと整理できます。
ものづくりの原則:3つの視点(素材/工程/包装)
無印良品の商品づくりは、
「素材」「工程」「包装」という3つの視点を基本にしています。
どんな素材を選ぶのか、どの工程を省き、どこに手をかけるのか、そして包装をどこまで簡素にできるか。
この判断基準が明確であるため、
商品ジャンルが変わっても無印良品らしさが失われません。
マーケティング施策として見ると、
これはブランドの一貫性を保つための内部ルールとも言えます。
派手な差別化を打ち出さなくても、選ばれ続ける理由が商品そのものに組み込まれている状態をつくっています。
企業理念・使命:「感じ良い暮らしと社会」
無印良品は、企業理念として「感じ良い暮らしと社会」を掲げています。
ここで重要なのは、暮らしだけでなく社会まで視野に入れている点です。
商品を売ること自体が目的ではなく、
生活の質や社会との関係性を少しずつ良くしていくことを使命として定義しています。
この考え方は、環境配慮や地域との取り組み、店舗のあり方にも反映されています。
ブランド戦略として見ると、
短期的な売上ではなく、長期的な信頼と共感を積み上げる設計です。
その結果、無印良品は「好きなブランド」という感情だけでなく、
「考え方に共感できるブランド」として位置づけられています。
無印良品のマーケティング戦略

ブランド戦略が無印良品の「考え方の軸」だとすれば、
マーケティング戦略はその考え方を日常の接点でどう体験として届けているかを示すものです。
店舗やアプリ、環境への取り組みなどを通じて、
ブランドの思想が自然に伝わるよう設計されています。
広告よりも「体験・文脈・共感」で指名される
無印良品はテレビCMや大量の広告露出によって認知を広げる手法に、大きく依存していないブランドとして知られています。
実際、広告宣伝費の比率が比較的低いことは、外部の企業分析などでも指摘されています。
ただしこれは、「広告を一切しない」という意味ではありません。
無印良品の場合、広告を主役にするのではなく、
店・商品・空間・世界観そのものを、情報を伝える中心に置いている点が特徴です。
マーケティングの言葉で言えば、
これは「オウンドメディア化されたブランド体験」と捉えることができます。
オウンドメディアとは本来、企業が自ら運営する情報発信の場を指しますが、
無印良品ではそれが記事やSNSに限らず、
| ・店舗での体験 ・商品のデザインや説明 ・暮らし全体を想起させる世界観 |
にまで広がっています。
こうした体験を通じて蓄積されるのが、「指名で選ばれる状態」です。
価格比較や広告接触の結果ではなく、
「必要になったら、まず思い出す」という位置を取れていることが、無印良品の強さと言えます。
結果として無印良品は、広告で一時的に注目を集めるのではなく、体験と文脈への共感を通じて、長期的に選ばれ続けるブランドを築いています。
店舗は「関係を育てる場所」
無印良品は、店舗を単なる販売スペースではなく、
地域に開かれた「暮らしの拠点」として位置づけています。
実際に店舗では、商品販売に加えてイベントやワークショップなども行われています。

この考え方は、マーケティング用語でいう
「店舗=メディア」という発想に近いものです。
ここでいうメディアとは広告媒体のことではなく、
ブランドの考え方や価値観を、体験を通じて伝える接点を指します。
無印良品の店舗では、
| ・暮らしについて学んだり、試したりできる体験 ・地域や生産者、自治体とつながるきっかけ ・「また来たい」と思える理由づくり |
が同時に設計されています。
マーケティングの視点で見ると、これは
「関係資産(リレーションシップ)」を積み上げる設計と言えます。
関係資産とは、短期的な売上では測れない、
再来店・参加・共感といった“関係の蓄積”そのものを価値と捉える考え方です。
結果として無印良品の店舗は「商品を売るための場所」というよりブランドとの接点が自然に増え、深まっていく中心的なチャネルとして機能しています。
自ら環境への配慮をしたくなる(ReMUJI)
無印良品は、不要になった衣料品や生活用品を店舗で回収し、
それらをもう一度使う、形を変えて生かす、資源として戻すといった流れへつなげています。
この取り組みは、
| リユース(再利用)/アップサイクル(価値を高めて再生)/リサイクル(資源として再利用) |
と呼ばれる考え方を、生活の中で実践できる形にしたものです。
特徴的なのは、こうした環境配慮を「意識の高い人だけが参加する活動」にせず、いつもの買い物の延長線上で、自然に参加できる仕組みとして設計している点です。


マーケティングの言葉で言えば、
これは「行動導線に落とし込まれたサステナビリティ」と表現できます。
理念やメッセージを強く打ち出すのではなく、
| ・使わなくなったものを持ってくる ・別の形で生まれ変わった商品を選ぶ ・長く使える選択をする |
といった具体的な行動を通じて、価値観が伝わる設計になっています。
その結果ReMUJIはサステナビリティを「語るもの」ではなく、日常の選択として無理なく組み込まれるブランド体験へと変えています。
アプリを起点に「買う前から買った後まで」をつなぐ
無印良品は、会員アプリ「MUJI passport」を通じて、多くの顧客と継続的につながる仕組みを早い段階から整えてきました。
このアプリは、単なるポイント管理にとどまらず、
来店、購入、情報閲覧といった日常の行動をゆるやかにつなぐ役割を担っています。

マーケティングの言葉で言えば、これは
CRM(顧客との関係を継続的に管理・深める考え方)の実践にあたります。
「一度買って終わり」ではなく、
接点を重ねながら関係を育てていくための基盤としてアプリが使われています。
実際にMUJI passportの国内年間アクティブユーザー数は1,569万人を超えており、
多くの人にとって無印良品が“定期的に接点を持つブランド”になっていることが分かります。
近年では、アプリや会員プログラムの見直しも進められ
「必要なときに思い出される存在」「暮らしに寄り添う存在」として、体験全体を再設計しようとする動きが見られます。

この取り組みは、OMO(オンラインとオフラインを分けずに体験を設計する考え方)とも重なります。
無印良品の特徴は、オンライン購入を増やすこと自体を目的にするのではなく、
| ・店舗での体験 ・アプリを通じた継続的な接点 ・地域での活動や取り組み |
を一体として設計し、
買う前も、買った後も関係が続く状態をつくっている点にあります。
世界の文化を取り入れて再構築(Found MUJI)

Found MUJIは、新しい商品を一から開発するのではなく、
世界各地の暮らしの中で、長く使われてきた道具や習慣に目を向け、
現代の生活に合うよう最小限の工夫を加えて紹介する取り組みです。
ここで重視されているのは「新しさ」や「目新しさ」ではなく、
なぜその道具がその土地で使い続けられてきたのかという背景です。
マーケティングの視点で見ると、これは
キュレーション(選び、編集し、意味づけること)による価値づくりと言えます。
自社の思想に合うものを「選び直し」、
文脈や物語とともに提示することで、ブランドの考え方を伝えています。
この活動を通じて無印良品は、
「無印らしさ=流行ではなく、時代や地域を超えて通用する生活の基本」という考え方を、
商品の機能説明ではなく、物語や背景を通じて理解してもらうことを目指しています。

結果としてFound MUJIはブランドが掲げる思想を新たに主張するのではなく、
すでに世界の暮らしの中に存在している事実を“編集して示す”ことで証明する、編集型のブランド戦略として機能しています。
無印良品のメルマガ戦略
無印良品のメルマガは、短期的な販促を目的とした「売るための配信」ではなく、
ブランドの考え方や暮らしの提案を継続的に届ける役割を担っています。
ブランドへの愛着を育てる
運営する良品計画は、セール情報や新商品の告知に偏らず、
商品の背景にある考え方、使い方の提案、季節や暮らしにまつわる読み物的な内容を織り交ぜています。
以下は、筆者のもとに実際に届いたメルマガです。
件名は
「【開発のひみつ】人気商品について、開発担当に聞きました」
…そそられますよね。
秒で、開封してしまいました☺️

これは、メールを広告枠として扱うのではなく、
ブランド体験の延長線として位置づけているためです。
配信内容も「今すぐ買ってもらう」ことを強く求める構成ではありません。
必要なタイミングで思い出され、参考になる情報が届くことで、
生活者との接点を静かに維持しています。
その結果、メルマガは購入を直接促す装置というより、
信頼や親近感を積み重ねるためのコミュニケーション手段として機能しています。
無印良品のメルマガ戦略は、
ブランド戦略や店舗体験、アプリ施策と連動しながら、
関係性を長く保つための一要素として組み込まれている点に特徴があります。

ちなみに無印良品では、製造小売業だけでなく、
「無印良品の家」をはじめとした建築事業、地域資源を生かした空間設計事業を展開しています。

こちらはこちらで、別にメルマガを発行しているのですが、
ここでも、無印のこだわりの世界観が溢れています。

家を建てたりリノベーションするときは、
無印で建てたいなあ…♪
おっと、話が逸れましたm(_ _)m
それではまとめに行きましょう!
まとめ
無印良品のマーケティング戦略を見ていくと、
個々の施策が目新しいから成果を出しているわけではないことが分かります。
その根底にあるのは、「これでいい」と納得できる暮らしを軸にした一貫した考え方です。
ブランド戦略では、素材・工程・包装といった明確な判断基準を持ち、商品や空間、情報発信にまで同じ思想を通しています。
その上でマーケティング戦略では、広告で一気に刈り取るのではなく、
店舗、アプリ、メルマガ、環境への取り組みといった日常の接点を通じて、関係性を少しずつ積み上げていく設計がされています。
店舗は「売る場所」ではなく関係を育てる場所として機能し、
ReMUJIはサステナビリティを理念ではなく行動として体験できる形に変えています。
アプリやメルマガも同様に、購入を急がせる装置ではなく、
思い出され続けるための接点として使われています。
無印良品の強さは個別のマーケティング手法ではなく、
思想と体験がずれずにつながっている点にあるのです。
今回出てきた専門用語
この記事では、無印良品の取り組みを説明する中で、マーケティング領域の用語に加え、その周辺分野の考え方も登場しました。
分類整理してまとめてみましたので、ぜひご活用ください☺️
マーケティング/ブランディングの基本用語
ブランド戦略
ブランドが何を大切にし、どう認識されたいかを定める長期的な設計思想。
マーケティング戦略
ブランド戦略をもとに、どの接点や体験を通じて価値を届けるかを設計する考え方。
オウンドメディア
企業が自ら管理・運営する情報発信の場。記事やSNSに限らず、体験全体を指す場合もある。
CRM(Customer Relationship Management)
顧客との関係を継続的に管理・深化させる考え方や仕組み。
OMO(Online Merges with Offline)
オンラインとオフラインを分けず、一体の体験として設計する発想。
マーケティング実務でよく使われる関連用語
指名買い
価格比較ではなく、商品やブランドを指定して選ばれる状態。想起やロイヤルティと深く関係する。
キュレーション
情報や商品を選び、編集し、意味づけて伝えること。文脈づくりの手法として使われる。
隣接領域の概念(マーケ文脈で活用される考え方)
店舗=メディア
店舗を販売の場だけでなく、価値観や世界観を体験として伝える接点と捉える考え方。
関係性マーケティング
短期的な売上ではなく、顧客との関係性の継続や信頼の蓄積を重視する発想。
行動導線
考え方や価値を、実際の行動につなげるための流れや設計。UXや購買体験と密接に関わる。
リユース/アップサイクル/リサイクル
環境・循環の文脈で使われる用語。マーケティングでは、価値観を行動として体験させる設計と結びつく。
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この記事のライター
川上あおい
3児の母。株式会社コンビーズのライター。メルマガも担当。24時間、車を運転したことがある。

この記事の監修

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